医療事故事件の紛争解決の方法は、
1.示談交渉
2.調停
3.医療ADR
4.裁判
の4つに大きく分けることが出来ます。
ここでは、これらの紛争解決の方法を解説していきたいと思います。
【調査・証拠保全】
弁護士は、相談を受けていきなり裁判をするということはありません。
まずは、病院側に医療過誤があるかの調査と、その後の手続で使用するために、関連する証拠を収集することからはじめます。
裁判所に対する診療記録の証拠保全の申立、病院に対するカルテの開示申請、関係者への聞き込み、関連する医療文献・先例の調査等を行い、医療過誤事件として対応するかの検討を慎重に行います。
証拠保全手続きとは、記録の改ざん、隠匿、破棄の恐れがあるなどの場合に、裁判所を通じて、抜き打ち的に当該記録を証拠化する手続きをいいます。
【示談交渉】
示談交渉とは、医療事故があり医療機関側に責任があると判断される場合に、弁護士が患者側の代理人として話し合いをし、合意を成立させることをいいます。
医療機関側に明らかな医療過誤があった場合は、示談交渉でまとまる可能性が高いですが、そうでない場合には話し合いが平行線のまま、示談交渉での紛争解決が出来ない場合が多くあります。
示談交渉のメリットは、費用も時間もそれほどかからないことです。裁判の長期化に伴うストレス、費用等を免れることが出来ます。
示談交渉のデメリットは、損害額の一部しか支払われないことが少なくなく、訴訟等の他の手段と比較して、ほとんどの場合賠償金額が低額になります。
【調停】
調停とは、示談交渉と同様に医療機関側と患者側が話し合いで解決する方法で、裁判所の関与の下で話し合いをすることが示談交渉と異なる点です。
患者側と医療機関側において、医療事故の過失の有無に争いがなく、損害額が争いの対象となっている場合は調停での紛争解決が期待できます。
逆に、双方において、過失の有無に大きな争いがある場合には調停での紛争解決は期待できません。
調停のメリットは、訴訟に比べて時間や費用等の負担がそれほどかからない点です。
また、訴訟での立証が困難な事案でも、柔軟で妥当な解決を図れる場合があります。
調停のデメリットは、話し合いがまとまらない場合には調停が成立しないことです。
【医療ADR】
医療ADRとは、弁護士会等が運営している機関において、当事者間の話し合いで解決できない紛争について、仲裁人等を交えて解決する手続を言います(なお、ADRとは裁判外紛争解決手続の略称です。)
医療事件の経験が豊富な弁護士等が仲裁人として、中立的な第三者としての立場で話し合いに参加し、当事者双方の話をよく聞いた上で、当事者の合意の下で妥協点を見出して和解をしたり、仲裁判断を行うことで、その紛争を解決する手続です。
医療ADRのメリットは、裁判と違って非公開で手続を進められ、裁判よりも迅速に、柔軟な解決をすることが可能です。通常、医療訴訟であれば裁判が終わるまでに平均で2年程かかりますが、医療ADRは半年程度で終了に至ります。
医療ADRのデメリットは、医療ADRには医療機関側が手続に参加する義務はありませんので、患者側が申立てをしても手続が進まない可能性があります。
【裁判】
裁判は、裁判官が患者側、医療機関側双方から提出された証拠を基に事実認定をして判決を下します。
しかしながら、医療訴訟は裁判の中でも非常に難しいものとされています。
なぜなら、(1)事実関係の解明のために必要な資料が患者側ではなく、医療機関側にほとんど収集・保管されているため、証拠が偏って存在しており、(2)医療機関側の過失を立証するために必要な医学的知識を患者側が得ることは困難であることからです。
証拠によって医療機関側の過失を立証することができる見込みのある事案であれば、訴訟によって一挙に紛争を解決することが出来ます。
これに対し,医療機関側の過失等を立証する見込みが立たない事案は、裁判による紛争解決には向かず、示談交渉や調停等の手続をとるべきです。
裁判のメリットとしては、一般的に請求が認められたときの賠償額が他の手段と比して高額となります。
裁判のデメリットとしては、判決まで審理に時間がかかり(平均審理期間約2年)、多大な費用がかかります(弁護士費用以外にも鑑定費用等)。